速度のおはなし

 今レッスンしている、幼稚園の女の子の楽譜には「Moderate」と初めて出てきた速度標語がかかれてあります。

 「これはね、『モデラート』と読んで、中くらいの速さで弾くんだよ」


 ・・・・ 


 たぶん、大部分の人が頭の中「????」になると思います。


 「中くらいってなんだ!」

  私にも中くらいなんてうまく説明できません。


 

 「Andante (アンダンテ)」なんて聞いたことありませんか?

 この意味は、「歩くような速さで」なんですが、これもなんだか曖昧ですよね。



 

 こうした速度標語のほとんどは、こんな具合に人の感じ方によっていかようにもとれる意味合いです。


 なぜならこれらの速度標語のほとんどはイタリア語で、その意味から来ているものだったり、元の語源となるラテン語から派生しているからなんですって。


 例えば、先ほどの「モデラート」は、イタリア語で(程よい、節度のある)という意味があり、「中火で」なんて時もモデラートが使われるそうです。


 また「アンダンテ」は、「行く、進む、移動する」という意味の動詞から派生した言葉ですが、「気楽な」というニュアンスもあり、ゆっくり歩くような速さで、と覚えるといいのかなと思います。


 モデラートと比べると、アンダンテの方が

「やや遅い」と解釈することになります。


 他にも、語源からくるイメージをいくつかあげますと…


  ~遅い仲間~

 ・Lentoは、レントと読み、イタリア語では、「時間がかかる」という意味そのままに「遅い」英語に訳すとSlow

 ・Largoは、ラルゴと読み、イタリア語で「広い」、英語で「Wideワイド」と言う意味なので、そこからただ遅いと言うだけでなく、「雄大な」とか手を大きく広げるような幅のあるイメージをもちます。

 ・adagioは、アダージョと読み、語源からは「心地よさ」とか「ゆとり」とか「くつろぐ」とか「安らぎ」などのイメージ。

 ・Graveは、グラーヴェと読み、肉体的にも精神的にも物理的にも重さがあると言う意味で、「頭を抱える」「思い悩む」というニュアンスがある。音楽では、かなり遅い速度を示す。


 ~速い仲間~

 ・allegroは、アレグロと読み、「明るく、陽気な」というイタリア語の意味からきてはいるが、ラテン語の「即座に対応できる」という意味もある。ただ、激しい曲や暗い曲にもアレグロ表記があるので、単に明るく速いというわけではない。

 ・vivaceは、ヴィヴァーチェと読み、こちらは、「心も身体も活発」や「覚醒している」という意味で、そのまま曲のイメージになります。アレグロよりもやや速い。

 ・prestoは、プレストと読み、イタリア語では、「前進、先行」といった語源がある。ですので、プレストはとにかく速い。スピード感のある速さ。

 


 ふぅ~、曖昧な感覚を説明するのは難しいですね・・。

 


 こんなふうに速度標語は、基本的なテンポの他、微妙なニュアンスや、演奏する時の精神的な状態を作曲家が伝えているのですね。

 だからアバウト。

 だから、同じ楽譜を弾いていてもピアニストのテンポ感はそれぞれに違うのです。


 もし、今勉強している曲の楽譜、左上に速度標語があったら、その意味と曲調を照らし合わせながら、作曲者がどうしてそのニュアンスの持った速度標語を指定したのだろうかと考えてみたり、じゃあ自分がどういう気持ちで弾きたいかを考えてみよう。


 速度標語の他にも発想標語と言って、「熱情的に」「活き活きと」「優美に」「愛らしく」など速度と同様、表現にかかわる指示が、もっともっとたくさんありますし、組み合わせていろんな言葉もでてきます。